嬉野で聞いた、釜炒り抹茶の話 — 四十三年の目と、三十年ぶりの出来
蒸し製法が主流のいま、嬉野で釜炒り抹茶をつくるのはわずか三件。四十三年以上、水分と火力のバランスを見続けてきた茶師を訪ね、今年「三十年で一番」と聞いた出来と、毎日使える抹茶としての可能性を記録した取材ノート。

2026年6月、佐賀・嬉野の茶畑を訪ねました。松壽園が大切にしているのは、袋に詰めて送ることだけではありません。出会った人のこだわりを取材し、そのまま言葉と写真で届けること——今日は、その第一歩として釜炒り抹茶の現場を歩きました。

蒸し製法の抹茶が主流のいま、釜で炒って仕上げる抹茶は、日本茶の中でもごく一部です。嬉野市内でも釜炒り抹茶をつくっているのは三件だけ——全国的にも希少なラインだと、三代目茶師から聞きました。

市の試験場が二か所、この茶師のやり方を参考に釜炒りを試しているそうです。ただ、そちらは色味を出すために火力を弱めるぶん、ぼけやあくが抜けきらないとのこと。一方この工房では、常に釜に張り付いて火力と水分量に挑み続けることで、その辺りも克服している——四十三年以上、水分と火力のバランスを研究してきた職人だからこそ辿り着ける、オリジナルの味があると聞きました。

釜炒り抹茶の難所は「水分」です。釜で炒りながら葉の水分を出し、鉄板の上でさらに炒ってかき混ぜる。吸い取りすぎれば苦くなり、吸い取らなければ煮えて味がぼやける。完成まで七年から八年かかったという話を以前から伺っていましたが、今日は乾燥の現場がよりはっきり見えました。

乾燥工程でも味は変わる——そこで職人の目が常に張り付いている、と。茎の乾燥具合を目安にしているそうです。八女には自動乾燥の設備もあるが、ここではすべて自分の目で見ている、と聞きました。機械に任せず、葉の状態を逐次判断する。それが四十年の積み重ねだと感じました。

栽培は、やぶきたを二十日間遮光。有機肥料には菜種油かすと牡蠣殻。茶園には遮光ネットがかかり、落ち葉を敷いた畦が続いていました。霧の山あい——嬉野らしい風景の中で、今年の収穫とお茶の出来について長く話を聞きました。
そして今年の釜炒りは——過去三十年で一番の出来だ、と現地でそう聞きました。碗に点てた色、粉の鮮やかさ、すっきりとした後味。記録に収めた一杯は、その言葉を体感するためのものです。
嬉野の釜炒りは、薄茶の席で「最高級の蒸し抹茶」と競う茶ではありません。毎日のラテに、料理に。重めの牛乳でも胃もたれしにくい、使うための抹茶——それが松壽園がこのラインを扱う理由です。取扱商品:雪風・霞音・若露・松壽もが など。卸・ご質問は Contact へ。